青葉、最上のトップマストヤ-ド上半角、後退角の有無について  (Part 1)

当会は掲題について、{図面と実艦の写真とを比較すると、ヤ-ドの形が違うのはどうした事か? とのご
質問が多々あり、その都度差異について、説明して来ました。 手元に又<同じご質問を頂きましたが、
今般のHP開設を機会に、この場で説明することが最良と考え、同意を得て行う事としました。
 (以下は説明口調で進めます。)

結論を先に述べると 
「青葉は近代化改装後(1940年) から、サボ沖開戦まで、十文字ヤ-ドを採用した事はなく、上図左下の
 通りであった。」

「最上は航巡時代、十文字ヤ-ドの採用は無く、上図右下の通りであった。重巡への改装後から、航巡
迄の期間は、トップマスト直立、後退角無しのV型ヤ-ドだったと推定する。

 「青葉のサボ以降、最終状態迄については、米軍爆撃調査団が、呉港外鍋島に大破底着した状態の
 写真を多数残しているが、トップマストが失われており不明。 この時期の公式図、改正記録も見た
 ことが無い。
 最も長く空中線を展開できる、他のデザインを取れないとすれば、マストは同一図面で修復し、艦尾信号灯
 の位置を、トップマストからクロスツリ-直下に変更したのみと思はれる。」

以上が結論であるが、以下に写真と当会図面の間に、なぜ差異が存在するのかの説明を行う。 但し
ここでは解明のプロセスが、両艦全く同一のため、主に青葉について行う。、


1 写真説明
  左上の写真は、海軍報道班員が撮ったもので、戦前の新聞、雑誌に掲載された物である。 確かに
  無線ヤ-ドは、一直線であり、V形ではない。丸いものを四角いと云うが如き相違である。

2 定義
  証明に入る前に、幾つかの定義をしておきたい。

  定義 1 この写真は、青葉型の戦時下の写真である。
       ( 飛行甲板、マスト形状、水偵の型式から)

  定義 2 この写真の撮影位置は、艦橋左舷、旗甲板(羅針艦橋甲板)上である。  (図-1 参照)
       (煙突頂上近くにある、作業足場、(足掛け)の線が、ほぼ水平に見える目線から、また、信号
       旗索が写しこまれていないので、この甲板の一番外舷よりである。)

  定義 3 この写真は、遠近感の誇張、歪が無いものとする。
       (これは本論において、重要なファクタ-である。ある狭い範囲を見た時、写真を実際に測
       り、写っている物の個々の長さを比例配分し、数値化するためであるからだ。) 

       私は実際に青葉を見たり、乗ったりしたことは無い。多くの写真、図面を見続けた結果、私の
       脳みその中にイメ-ジが集積し、それが合成反応を起こし、三次元化されている。・・・・ それ
       によると、この写真の遠近感は自然であり、人の目に近い、50mm レンズによると察する。
      (50mmレンス゛の写角は、47度であり、カメラを縦にすると、丁度この範囲をカバ-する。)
       この頃は 28, 35, 50, 70, 105, 135, 200 mm ( Leica )が、存在していた。

  定義 4 ヤ-ドの形状、寸法は、船体中心線、マスト中心垂線について、それぞれ線対称であるとする。

  定義 5 ヤ-ドとカメラの位置座標は、当会図面を測り、メ-トル単位で算出して、使用する。

3 証明の説明を始める
、     
r
定義 3 から写真のヤ-ドの左右の幅を測ると、L1とL2
に差がある事が判る。数値は、写真を任意に拡大コピ
-して、測ったものであるから、左右の長さの差を示す
ための、便宜上の値と考えて欲しい。

5度30分のズレで、ヤ-ドを見ていても、左右の長さにつ
いては、定義 3 と 4 の条件下では、差が有ってはなら
ないのに、L2はL1の二割も小さいのである。

これが「ヤ-ドは真っ直ぐに対する疑惑の原点」であっ
て、この差と、定義 4 を成り立たせるには、図-3 の平
面図に示す、解釈以外に無いのである。
この図は定義 4 に基ずき、L1,L2の延長線と、左右の
ヤ-ド幅54(仮定)の交点d',e'を求め、点線で定義が成
立するヤ-ドを示したものである。

直線に見える d-c-eは、実はd'-c'-e' の点線を見てい
たのである、 と言う事だ。これは後退角 f の存在があ
ると云うことである。(証明 1)

この証明 1 から、ヤ-ドは水平面上でのみ、後退角fが
存在したと、まず仮定する。(仮定 1)

この仮定 1を立体的に表現すると、図-4 に示す二等辺三角柱の、底面の辺 d"-c"-e"に当てはめ
られる。

ヤ-ドを16 度の角度で、見上げた状態を模擬したものが、図-5 の太い実線 d"-c"-e"である。
これは、図-4 の三角柱を16度傾けたもので、ヤ-ドを表す太い線は「への字」に見えてしまい
写真と差異が生ずるので、仮定 1 は成立しない。

今度は図-4 の三角柱の上部を、16 度の角度で切断すると、d'-c-e'の点を有する傾斜面が
出来る。 これを図-5 の様に、16 度傾けると、点 d'-c-e' は一直線上に存在する。(証明 2)
'
ここまでの、論法に誤りが無いとすれば、証明 1, 2 から 青葉については、
「ヤ-ドは、16 度の上反角と f 度の後退角を持っており、写真はだまし絵である」と云う事だ。

この写真だけでf の値を求める事は、ヤ-ドの長さの絶対値か、絶対値の判明している物が至近
に無い限り、困難である。

つたない図の陳列で理解しにくかったかも知れない。 三次元CADで処理すれば、綺麗な図の
印刷、立体画像の角度回転によるディスプレイで、判りやすい説明が出来たと思う。
かっては業務で使っていたが、RETIRE した私には、ソフト代(百数十万円)、大きなメモリ-が必
要で、我々のPCでは手に負えない。

そこで代替の確認方法として、だいぶ落ちるが、ワリバシ二本をV の字に突合せ、頭上に掲げて
眺めて見て欲しい・・・・・・・

円柱を横からしか見ない者は四角いと言い、真上からしか見ないものは、丸かったと言う。また
ある者は、あれは一時四角い時があり、その後しかじかの理由で丸くなったという。 この三人の
内、誰が正しく物の形を理解したのだろうか?  写真-1 については、カメラマンは、罪な写真を撮
ったが、シッカリ手懸りも残してくれた。船体中心からゲットしたら、どちらとも解釈出来る写真とな
ったからだ。

昔、ある有名な児童画画家のダマシ絵を見たことがあった。一階、二階の吹き抜けの部屋で、階段
が真ん中に描き込まれている絵だが、階段が見方によって、裏表どちらにもとれ、それにより全体の
様子が反転するのである。

この場合はニヤリと笑って済ませられるが、今回のヤ-ドの写真を真に受けて模型化した時は、
空中線も含めて、大改修となってしまう。

Scrapbook に陸奥のボラ-ドペ-スプレ-トの話をしたが、それも手口の違いこそあれ、「ダマシ写真」
に注意ということか。



最上のヤ-ドについて、青葉の説明とのダブリを避けて、以下に説明を行う。

本章の冒頭に掲げた写真から描いた絵の、真っ直ぐなヤ-ドが、V形であることの証明である。
下の図-1は定義 2と 5 に基づいて作成したもので、点線が目線を示している。
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青葉のヤ-ド正面図とイラスト
最上のヤ-ド正面図
I.J.N  HC Aoba
I.J.N HC Mogami 
この図-6は、公式図と冒頭の写真 2 をリンクさせて、作成したもので、上は側面、下は平面を示す。
例により、定義から始めるが、前述青葉の定義 3,4,5 は、そのまま使用し、最上だけに適用する定義
として、定義 1,2 のみを、以下の通りに書き換える。

定義 1 この写真-2 は、航巡最上のものである。
     根拠として、別に有る飛行甲板を写し込んだ写真は、航巡最上の物であり、写真 2 の煙突ま
     わりの艤装との差異が、全く無い。又写真 2 の左下に写し込まれた十字は、図面上有る最
     上の艦尾空中線マストと考えられる。写真上の位置が自然で、他艦の物とする根拠もない。

定義 2 この写真の撮影位置は、右舷探照灯台 ( 以下台 )の上である。

     写真の右側に、キャンバスに覆われた探照灯と思われる物が、至近距離に有るからだ。
     台上と仮定した場合、写真で見える蒸気捨て管脇にある「作業灯」と、艦尾マストの高さ、煙突
     ジャッキ-スティの右上がりが目線より上に有る事を示す等の関係が、図面上の模擬で、一致
     する。(図 6 にそれを示す)   この目線上で、探照灯を写真の様に取り込める場所は、カメラを縦
     にかまえた場合、他に無い。 

     この写真を撮ったレンズの焦点距離は、50 mm である。
     広角、標準、望遠のいずれかと言うことは、遠近感強調度合いの事であり、確認しないと判断
     ミスを生むからだ。(近くに有る二つの物の、大きさの差を判断する時に)

     図 6 の「写真の上限、下限」は、冒頭の写真 2 の、写し込んだ範囲を指している。この角度
     は、約 45 度と測れたが、50mm レンズの写角は 46.8 度であり、やや狭い範囲しか撮られて
     いない。 しかし、35mm フイルムを使用したとすれば、ネガの一コマのサイズは、23.5 *36
     て゛ある。 写真 2 は、この比率より、上下が短いから、プリントした時、図 6 の艦尾マストの
     点線部か、空をトリミングしたに違いない。 とすると、50mm の写角に、ほぼ一致する。

     従ってレンズは、50mm( ズマ-ル 50 f2 , ヘクト-ル 50 f2.5 ? ) であり、遠近感に特別注意
     する必要はないと考える。
  
以上、定義が正しいとして、ヤ-ドの後退角、上半角の有無証明を始める。

   
  
上に掲げた図- 7と図-8 を見ながら、「最上V字論」を進める。

説明 1
図 -7 のFは、写真の上にトレペを載せて、写した物であるが、やはりこれも「ダマシ絵」であ
る。 ただこのヤ-ドは右側が23% 短く、前に述べた青葉とほぼ同じであるが、青葉よりも約三倍横
から、斜視している事が、異なっている。

従って、後退角が青葉より最上の方が、ゆるい(小さい)事を意味している。 首尾方向の斜視角の
差約10 度は、最上の後退角が判明すれば、間接的に青葉のそれも、掴めると云う事である。

図 8 のB から、上反角は 36 度である。

最上の場合、ヤ-ドに関する写真が二枚有ったため、両方をデ-タ-リンクさせる事で、上反、後退角
の両方を、定量的に求める事が出来た。 但し、長さという単位では、定量的にとれなかった。理由
は写真の中に、長さを引用できる物が、写し込まれていないためである。 従ってここでは、ヤ-ド構
成部品の相対的な寸法比率に、とどまっており、長さの絶対値は今後の宿題である。。


説明 2
写真 3
上に掲げた写真状の絵は、この写真の撮影位置を示すために出してみた。 (イ) CAMERAと記し
た字の下の線上で、(ロ)タ-ンテ-ブルの直後から、飛行甲板端の中間が、カメラの位置とみた。
かなり右に振った撮影である。 写角は両舷側の機銃を取り込んで余裕を残していて、公式図上
では45度の範囲となり、先の写真と同じ、50 mm レンズで撮った事になる。

撮影位置、ヤ-ド付け根との相対角度を、図-8 B に示す。かなり狭角のVであるが、飛行甲板の
中央で、最狭で見れると思う。 ヤ-ド付け根に対し、見上げ角15 度、斜視角 3 度であり、ほぼ
船体中心線上から見上げたとしても、誤差は少ないと考える。

説明 3
直接、図 7 の作図順序を、説明する事にした。 幾何学教室的論法は、する方も、聴かされる方
も、うんざりするからだ。


1 図B に一本の垂線を引き、それに13 度で交わるトップマストの線を引く。 13 度は公式図に
  よった。
2 13 度の線の任意の位置に、点C を書き、36 度の「見上げ角」の線を任意の長さに引く。
  これを真横から見た、ヤ-ドの線とする。
 
3 図 B のC点から、垂線に対し75 度( 艦尾からの見上げ角15 度に相当) を、左に引き、図A の
  C 点を書く。
4 上記のC-C を結んだ線と直交する線を、図BにC 点を通る様に引き、これを艦尾から見たマス
  トの中心線とする。
5 ここに、写真 3 のヤ-ドをトレ-スした物を、貼り付ける。( C 点が一致する様に)

  
   
6 今度は逆に、図 A の a b 点を、図 B に戻す様にして、図 B 上の線との交点をプロットし、線で
  結ぶとB 図が完成する。 ( B 図は正横図、すなわち側面図である)

7 以上でヤ-ドの形状は確定し、他の図は全て、図 A B の三角図法の展開作業で作成出
 来る。


検証
図 7 が正しいか ? を、公式図を基準として、検証( 確認 )してみよう。平面図と側面図に対して
行えば、形状の定義が出来る。

検証 1 平面図の確認
図 7 の C を見て欲しい。左の点線で表したものが、公式図上の平面図である。
後退角に若干の差が有り、その値は 8 度である。 どちらが正しいのか ? この差異について
ここで説明すると、話がごちゃごちゃになるので、後述とする。

検証 2 側面図の確認
図 8 の B を見て欲しい。 点線で表したものが、公式図上の側面図である。なんとこちらでは、
20 度の差異が有り、はんぱではない事を示している。

私は、振り出しに戻って全てを、再点検した。 艦艇愛好家の諸氏を、私の拙論でミスリ-ドする
訳には、いかないからである。 疑り深い私は、公式図を見て、それの次の違い( 間違いでは
ない)を発見した。 

最近 G 社から、航巡最上の図面が発表されたので、お持ちの方はこれを見て欲しい。この図は
元の公式図をトレ-スしてリメイクした物( 一部の字句の省略をして)であるが、忠実である。

違いとは、公式図でのヤ-ドの上反角が浅過ぎると言う事だ。その根拠を二つ挙げる。
1 ヤ-ドの線を延長すると、艦橋上の測距儀背面に至り、ここからでは、探照灯、作業灯、その
 他が、写真 2 の位置関係で撮れない。(ここからヤ-ドが一本線に見えるのか ?)
2 図 8 B と写真 3 で示す様に、艦尾からヤ-ドを見ると、その先端 a b を結んだ線が、点滅灯
  の付け根と一致しており、公式図はこの条件を満足できない。

また、重箱の隅をつつくようだが、ヤ-ドの艦首尾方向の長さも、側面図と平面図に差があり
いずれが正しいのか、悩む所だ。(公式図の原図共)


従って、上半角については、拙論の図が正しいと思う。 

思うに、公式図において、製図をする人には、ヤ-ドの角度は二次的な事で、それよりも空中線
の状況を、正しく記入する事の方が大切なのだ。確かにヤ-ドの角度は違っているが、間違いと
いうのは、すじちがい。一般艤装図は、もっぱら技術部、用兵側等がその用途に供するものであ
る。


従って前部マストのヤ-ドについても、十分確認してから、模型化すべきである。





参考資料
青葉、最上トップマストヤ-ドの上反角、後退角の有無について (Part2)
副題: 最上トップマストヤ-ドの上反角、後退角の再検討
zこの絵は、海人社増刊、新版「連合艦隊華やかなりし頃」のP103の写真を
トレペで転写したものです。

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最上Vヤード関連説明図
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